挿入損失と位相の変化
本技術資料では、温度変化に伴う挿入損失および位相長の変動をトラッキングする方法について詳しく解説します。
挿入損失のトラッキングとは、同一タイプ・同一長さの異なるアセンブリが、温度変化に対して本来の損失特性をどれだけ高い一致性で維持できるかを示す指標です。位相トラッキングと同様に、アセンブリ間の追従性が高いほど、システムに残る誤差は小さくなり、ビーム幅、サイドローブ抑圧、ビームステアリングの一貫性が向上します。その結果、システムレンジ、ジャミング耐性、クラッタ耐性、および全体精度において、より優れた性能が得られます。挿入損失トラッキング不良は、一般に、ケーブル製造時における使用材料および製造工程の管理不足、または特性の異なるケーブルアセンブリの使用に起因します。
この曲線は、バルクケーブル[直径0.190インチ(4.83 mm)、単線中心導体、PFAジャケット]に固有の特性を示したものです。極めて低損失のケーブルアセンブリでは、温度変化時のコネクタの影響により、この曲線からわずかに外れる場合があります。挿入損失の変化は、25℃における変化量0 dBを基準とした百分率で示しています。本測定は18 GHzで実施しており、周波数およびケーブルタイプへの依存性は小さい値です。挿入損失の変化は、主に温度変化に伴う銀の導電率変化に起因します。影響は小さいものの、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の誘電正接も温度依存性を示します。
温度に対する減衰量の変化(バルク特性)のグラフは、-100~+150℃の温度範囲における、ゴア製マイクロ波同軸アセンブリの代表的な挿入損失トラッキング特性を示したものです。特定のケーブルタイプでは、アセンブリの長さに応じて、挿入損失の差は通常2%以内に収まります。さらに、同一材料バッチからケーブルを選定することで、より厳密な一致性を得ることができます。詳細については、ゴアまでお問い合わせください。
ゴアのマイクロ波同軸アセンブリは、位相精度が求められるシステムにおいて、性能と信頼性の向上に寄与するとともに、システムの簡素化とコスト低減にも貢献します。当社製品の低損失性能と優れたVSWR特性は広く知られていますが、さまざまな環境条件下における優れた電気長安定性についてはあまり知られていないかもしれません。本資料では、その安定性についてご紹介します。
この優れた安定性を支えているのが、ケーブルに採用されている延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)誘電体です。このePTFEはゴア独自の製造材料であり、他社のマイクロ波アセンブリには使用されていません。まさに当社マイクロ波ケーブルアセンブリの中核要素です。
本資料の内容は、各種評価試験および実際の使用事例から得られたデータに基づいています。ただし、システム要件は多岐にわたるため、お客様の要件にそのまま適用できるとは限りません。当社へのご相談なく、直接仕様値として使用しないようお願いいたします。ゴアでは、個別要件に応じた性能保証にも対応しています。また、独自の垂直統合体制により、アセンブリの位相性能を高精度に規定できる点も特長です。
温度範囲にわたる電気長の変化特性は、位相‐温度応答と呼ばれます。基準温度(通常は25℃)に対して、応答曲線が平坦であるほど望ましい特性といえます。この位相‐温度応答曲線では、平坦性に加えてヒステリシスの大きさも重要です。ヒステリシスとは、ある特定の温度から高温側または低温側の極限温度まで変化させた後、その特定の温度に戻した際に測定される電気長の差を指します。ヒステリシス特性を示す伝送線路を使用したシステムでは、低温側から戻る場合と高温側から戻る場合とで電気長が異なるため、誤差補正技術の適用は非常に困難になります。
特定のマイクロ波伝送線路アセンブリにおいて、位相‐温度応答とヒステリシス特性の組み合わせが、そのアセンブリタイプのフィンガープリントとなります。フィンガープリントは、一定の許容範囲内でアセンブリタイプごとに固有の特性を示します。中には、同じ製品でも温度に対する位相特性のばらつきが大きいものがあり、これは通常、材料や製造工程の管理精度が十分でないことに起因します。
ゴアのマイクロ波同軸アセンブリは、主要な変動要因を包括的に管理しているため、フィンガープリントのばらつきを極めて小さく抑えています。ご要望に応じて、その許容範囲を保証することも可能です。
高密度PTFEのセミリジッドアセンブリとゴアのePTFEアセンブリでは、フィンガープリントが大きく異なり、アセンブリタイプの違いを示す指標となります。以下の「温度による電気長の変化」グラフは、ソリッドPTFEとゴアePTFEの温度特性の差を示したものです。電気長は25℃における電気長0度を基準として正規化しており、すべてのデータはこの値に対する相対値です。
以下のグラフ温度に対する位相変化: G5ケーブル(バルク特性)は、ゴアの代表的なケーブルタイプの一つであるG5のフィンガープリントを示しています。本データは、位相性能の平均値と、想定される下限値および上限値の範囲を示したものです。縦軸は位相変化を度/GHz/ftで表しています。なお、これらの測定値には測定誤差は含まれていません。
この曲線は、バルクG5ケーブル[直径0.190インチ(4.83 mm)、単線中心導体、PFAジャケット]の公称位相変化を度/GHz/ftで示したものです。位相変化は、25℃における0 ppmを基準とした相対値で表されています。位相変化は、温度上昇に伴うケーブルの伸張と、約15℃付近でePTFE内部に生じる状態変化が複合的に作用して生じます。温度サイクルに対しても再現性があります。正確な位相特性はケーブルタイプによってわずかに異なるため、位相‐温度特性を直接仕様値として設定される前に、ゴアまでご相談ください。
例えば、10フィート(3.0 m)のゴア製マイクロ波同軸アセンブリが、+25~-55℃の温度範囲で4.2 GHzにて動作すると仮定します。温度に対する位相変化: G5ケーブル(バルク特性)のグラフから、位相長の変化は0.24度/GHz/ftと読み取れます。
△EL° = 0.24 * 4.2 * 10 ≅ 10.1°
温度に対する位相変化グラフに示されるフィンガープリントについてシステムへの影響を比較するには、まず用途に応じた以下の要件を定義する必要があります。
- 動作周波数
- アセンブリの長さ
- 動作時および非動作時の温度範囲
- 温度変化に伴う位相変化に対するシステムの許容範囲
最後の項目は、システムの性能仕様や、許容できる誤差補正の複雑さ(およびそれに伴うコスト)によって異なります。これらの計算で得られる値はあくまで公称値であり、実際のアセンブリ特性はさまざまな設計条件や要件によって変動します。お客様の用途に応じた詳細データについては、ゴアまでお問い合わせください。
位相トラッキングとは、同一タイプ・同一長さの複数のアセンブリが、温度変化に対して本来備えるフィンガープリント特性をどれだけ高い一致性で維持できるかを示す指標です。誤差補正システムは、一般にトラッキングウィンドウの平均値で動作するよう設計されているため、アセンブリ間の一致性が高いほど、位相トラッキング特性はより望ましいものとなります。一方、ウィンドウが広い場合、システムに残る誤差は大きくなります。防衛用途では、このような誤差がビーム幅、サイドローブ抑圧、ビームステアリングに影響を与え、結果としてシステムレンジ、クラッタ耐性、ジャミング耐性、さらには全体精度にも影響します。デジタル用途では、こうした誤差が信号スキューの増加につながります。
アセンブリが十分な位相トラッキング性能を確保できない主な要因として、①ケーブルおよびアセンブリ製造における材料や工程の管理不足、②異なるメーカーのコンポーネントで構成されたアセンブリの混在が挙げられます。①については、アセンブリメーカーが工程を包括的に管理しており、さらに定期試験によってその有効性を実証していることを確認すれば回避できます。②は、市販のバルクケーブルを購入し、アセンブリ業者(場合によっては自社内)で組み立てる場合に発生しやすくなります。この場合、バルクケーブルやコネクタには汎用品が使われ、複数のサプライヤーから調達されることが一般的です。
位相精度が重要なシステムで使用される同軸アセンブリは、設置時や定期メンテナンス時、さらには実運用時にも、ほぼ確実に曲げの影響を受けるため、曲げや屈曲に対する位相安定性が非常に重要です。曲げに伴う位相変化は、システム設計段階でその影響を評価できるよう、最小限で、かつ予測可能であることが求められます。特にフェーズドアレイのようなシステムでは、多数の経路の電気長を厳しい許容範囲内で揃える必要があるため、この予測可能性が極めて重要です。
また、システムメンテナンス時に生じる位相変化も重要です。作業のためにケーブルを一時的に移動した場合、元の位置に正確に戻されることはまずありません。仮に戻されたとしても、電気長の変化はほぼ避けられません。これらの変化を最小限に抑えることが、システム性能の低下を防ぐうえで重要です。
同軸ケーブルは円柱状の構造であるため、屈曲に伴う位相変化を完全に避けることはできません。円柱状の部材を曲げると、外側の円周は内側よりも長くなります。その結果、伸張と圧縮によって円筒形状が変化し、内部応力も変化します。
同軸ケーブルは、複数の同心円状の円筒部材で構成されています。各構成要素は直径、材料、実際の構造が異なるため、曲げやねじれによる形状変化や応力変化の現れ方もそれぞれ異なります。これらの差異が、最終的に電気長の変化として現れます。ゴアのマイクロ波同軸アセンブリは、誘電体の高い柔軟性と復元性、ならびに優れたシールド技術により、曲げに対して最高水準の位相安定性を発揮します。
このシールド技術は、ゴアが1975年に導入して以来、優れた柔軟性、シールド性能、位相安定性において優れた実績を重ねてきました。
この実績ある設計をゴアのePTFE誘電体と組み合わせることで、他のアセンブリで生じる曲げ応力を大幅に低減しています。その結果、当社のアセンブリでは、曲げや屈曲時の位相変化も大きく抑えられます。
参考として、表1のガイドラインをご参照ください。低安定条件は左側、標準条件は中央、高安定条件は右側に示しています。
実際のシステム環境でアセンブリの安定性特性を把握することは重要です。ただし、常にそれが可能または現実的とは限らないため、相対的な位相安定性の目安を得るための試験が必要となります。
その一例として、断続的な曲げ、中程度の曲げ半径、および同一曲げ面での反転曲げといった標準条件を模擬する試験があります。さらに試験条件を厳しくする場合には、大きな曲げ角度(低安定条件)を組み込むことも可能です。本試験では、推奨されるケーブル最小曲げ半径の1.5倍の半径を持つマンドレルを使用します。
電気長は、次の4つの状態で測定します。①アセンブリを自然状態(直線状態)にした場合、②大きな曲げ角度を与えるため、マンドレルに時計回りに360度巻き付けた場合、③反転した曲げ面を模擬するため、マンドレルに反時計回りに360度巻き付けた場合、④再び自然状態に戻した場合。
FB試験ケーブルのグラフは、低損失の直径0.190インチ(4.83 mm)のアセンブリに対して本試験を実施した際の代表的な結果を示しています。お客様の使用条件により近づけるため、条件を調整した試験や、その他の試験を実施することも可能です。
温度変化に加え、マイクロ波システムで使用されるアセンブリは、振動、衝撃、湿度、屈曲、ねじれといったさまざまな環境条件にさらされます。
長期間にわたり振動や衝撃環境にさらされた場合でも、ゴアのマイクロ波同軸アセンブリは、セミリジッドアセンブリに見られるような金属疲労やはんだ接合部のひび割れによる機械的・電気的な故障に至ることはありません。また、振動時に自己発生ノイズやマイクロフォニック現象を生じることもなく、電気長、位相安定性、損失安定性、挿入損失、VSWRといった電気特性を維持します。
表1
| 低安定条件 | 標準条件 | 高安定条件 | |
|---|---|---|---|
屈曲頻度 | 継続的 | 断続的 | 1回のみ |
曲げ半径 | 最小 | 標準 | 大 |
曲げ角度 | <=360 | <=180 | <=90 |
曲げ面 | 複数面 | 単一面(反転あり) | 単一面 |
ねじれレベル | 大 | 小 | なし |




